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学会賞  

2019年度 学会賞

論文賞 婁 小波、川辺 みどり、中原 尚知、岩田 繁英
漁業制限補償の仕組みと漁業補償の諸問題」(沿岸域学会誌平成30年9月号登載)
本論文は、漁業権区域以外の沖合水域や自由漁業などにおける漁業補償のあり方を検討するための基礎的考察を実施したものであり、社会的意義および有用性が高い研究である。 本研究では,沖縄水域を対象に行われる「漁業操業制限法」に基づく漁業制限補償の制度的枠組み及び補償算定方式の特徴を的確に整理し、また、その補償の実態や問題点についても言及している。さらに、本研究をきっかけに、これからの洋上風力発電のスムーズな推進に資することが大いに期待できる。これら本研究で得られた知見は、今後の沿岸域の漁業補償に関して有用な示唆に富んでおり、沿岸域研究への貢献は大きいと言える。 以上を総合して、本論文は論文賞受賞に相応しいと判断した。
論文賞 日高 健
「ネットワーク・ガバナンスによる沿岸域多段階管理システムの試案」
(沿岸域学会誌平成30年12月号登載)
本論文は、沿岸域の多段階管理システムをネットワーク・ガバナンスに関連付け、有効な管理システムとしての可能性について、オリジナルな分析枠組みを用いて考察したものであり、独創的で新規性が高い研究である。 本研究では、ネットワーク・ガバナンスの基準を、里海づくり・里海ネットワーク・沿岸域インフラという活動と、地域をあげてのアプローチ・支援型アプローチ・全政府あげてのアプローチで構成される多段階管理システムに適用し、多段階管理システムは多元的な沿岸域総合管理に対応した仕組みであることを推察しており、また、この考え方に基づく分析フレームワークで予備的事例検討を実施し、その有効性を示している。これら本研究で得られた知見は、今後の沿岸域管理に対して貴重な示唆をしており、沿岸域研究への貢献は大きいと言える。 以上を総合して、本論文は論文賞受賞に相応しいと判断した。
論文奨励賞 松島 麻耶
小学生を対象とした尼崎運河におけるAL型環境学習の試行と深い学びに関する考察
(沿岸域学会誌平成30年6月号登載)
本論文は、アクティブラーニング型環境学習が児童の学びの質に及ぼす影響を、著者らが実際の環境学習の編成や実施に参画しながら解析し明らかにした、大変意欲的な研究である。本研究で実施したアクティブラーニング型環境学習の効果を評価する試みは、学術的にも新規性および有用性がある。限られたアンケート結果およびアンケートの自由記述のテキストマイニングによって得られたデータから「深い学び」を分析する手法は、沿岸域以外の環境学習にも応用できる手法だと考えられる。また、本研究の評価事例は、今後の沿岸域における環境学習に有用な示唆に富んでいる。 以上を総合して、本論文は論文奨励賞受賞に相応しいと判断した。
論文奨励賞 久松 力人
東京湾の再現期間別高潮浸水深分布の推定(沿岸域学会誌平成30年6月号登載)
本論文は、東京湾の高潮とそれによる浸水を確率論的に評価し、既往のハザードマップとは異なる、再現期間毎の高潮ハザードマップを作成したものである。損害保険を対象とした解析手法を考案し、実際に保険対象物が最も集積する東京湾に適用してその有効性を検討した点は、新規性・有効性が高く、防災上の有用性も高いと考えられる。また、台風による高潮現象のリスク評価における不確実性を減少させる手法として、特に損害保険業界に有益な知見を提供すると考えられる。このような研究が更に進めば、より正確なリスク管理や保険引き受けが可能となることが期待できる。  以上を総合して、本論文は論文奨励賞受賞に相応しいと判断した。  なお、本論文は論文集編集委員会からの推薦ではないが、論文奨励賞が「学術の進歩に寄与することが期待される研究者を対象」としているという観点から検討し、それに該当すると判断したものである。
出版・文化賞 里海学のすすめ 人と海との新たな関わり (勉誠出版 2018/4/13)
著 者:鹿熊信一郎、柳哲雄、佐藤哲
 本書は、里海という概念の系譜と、日本国内の5つの地区(白保、日生、沖縄市、恩納村、柏島)、海外4カ国(インドネシア、マラウイ、フィジー、米国)における里海の事例を、技術、制度、文化など多面的な視点から分析したものである。  本書の編著者らは、それぞれの調査研究フィールドにおける海洋環境とその生態系に依拠した生業を営む人びとの関わりを里海という概念に包んで記述し、人を排除する原生自然保護を超え、人が海と密接に関わる里海をつくることが、沿岸域における持続可能性の強化に効果的である、というメッセージを読者に伝えている。 里海づくりは、当初の定義に対する議論をふまえて、今や国家環境政策の一つとして日本政府に受け入れられ、生物多様性国家戦略や海洋基本計画においても推進されている。しかし、その要件を具体的かつこれほど多彩な事例とともに提示した書籍は、今までなかったところである。また、本書は、沿岸域管理の新たなアプローチとなる可能性を秘めた概念を提示する内容となっている。 以上を総合して、本書は学術・出版賞に相応しいと判断した。
出版・文化賞 ブルーカーボン 浅海におけるCO2隔離・貯留とその活用(地人書館 2017/6/1)
著者・編著者:堀正和、桑江朝比呂
著者:所立樹、渡辺謙太、吉田吾郎、仲岡雅裕、宮島利宏、浜口昌巳、阿保勝之、樽谷賢治杉松宏一、信時正人小池勲夫、Carlos M. Duarte
本書はブルーカーボンの基礎知識に始まり、生態学をはじめ、藻類学、生化学、生物地球化学や海洋物理学の専門家たちによる学際的な最新の研究事例、さらには行政機関による社会実装事例、国際社会での気候変動対策における最新動向まで含めた、包括的なブルーカーボンの解説書である。この内容構成も本書の優れた点であるが、さらに特筆すべき点として、以下の点があげられる。 (1)いわゆる専門家向けの科学専門書ではなく、一般市民にも理解しやすいよう表現に気を配り、かつ専門家にも新しい知見を示せるよう内容を吟味することで幅広い読者層を対象としている。これにより、沿岸研究の社会還元としての観点からも貢献が期待される。 (2)2009年に国連環境計画より出版された「ブルーカーボンレポート」の単純な紹介ではなく、その内容を精査し、あいまいな専門用語の定義や不足している知見等を見出して解説を行うとともに、本分野の研究・社会実装に向けて今後必要となる基礎研究や社会的実践の手法開発、行政施策などについて整理している。 (3)ブルーカーボン生態系(海草藻場、塩生湿地、マングローブ林)だけでなく、独自の研究成果に基づく科学的根拠・研究理論により、その概念を沿岸域全体へ拡張している。その内容は、「ブルーカーボンレポート」を執筆した著者からも高い評価を得ている。 (4)本書で初めてとりまとめられた知見をもとに、ブルーカーボン生態系による二酸化炭素吸収量の全国推計が初めて実施されるなど、科学のみならず行政や政策にも寄与している。 本書の知見・解説は、地球環境における沿岸域生態系の役割について再検討する必要性を強く示唆しており、学術界・官界・産業界における様々な分野での沿岸域の保全・再生とその持続的利用に関する議論や研究、成果の社会的還元に対し、影響を与え続けると考えられる。 以上を総合して、本書は学術・出版賞に相応しいと判断した。
功労賞 來生 新(前会長)

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