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学会賞  

2022年度 学会賞   

論文賞 飯田 隆人
洋上風力発電事業参入に対する地域社会の受容:秋田県能代市・三種町・男鹿市沖
および由利本荘市沖事業を対象としたアンケート調査に基づく分析
(沿岸域学会誌2021年Vol.34,No1登載)
 近年,Blue EconomyやBlue Growth等海洋開発関連のイニシアチブにおける,地域住民や小規模漁業者等の周縁化問題への懸念が高まる中,本論文は,地域住民・地域社会に焦点を当て,洋上風力発電事業への受容状況について解明しており,時宜的かつ有用度が高い内容であると評価できます。また,洋上風力発電に関する住民調査はまだ数が少ないことから,本論文で得られた結果は,沿岸域の研究分野に加え風力発電の分野においても貴重な知見を提供しうる内容となっています。「(観光が盛んであるという)男鹿市特有の事情が事業の反対傾向に繋がった」等の分析は,重回帰分析以外においても重要な知見であると言えます。  また,本論文では,アンケートの分析を通じて定義された受容度を目的変数,アンケート設問への回答を説明変数として,重回帰分析を行っています。機械的に分析を行うだけではなく,受容度を説明するために適切だと推定された重回帰モデルの説明変数を丁寧に解釈することを試みています。さらに,説明変数として選ばれなかった変数に対しても,十分な考察をしており,その内容は大変示唆に富んでいます。これらのように,本論文によって明らかとなった事実と論考は,沿岸域研究へ大きく貢献するものであると言えます。 以上を総合して,本論文を論文賞受賞に相応しい論文として推薦します。
論文賞 但馬 英知、法理 樹里、小林 由美、牧野 光琢、仲岡 雅裕 様
社会・環境変動に関する住民意識調査に基づく地域将来シナリオの検討
−北海道・厚岸を事例に−
(沿岸域学会誌2021年Vol.34,No1登載)
 本論文は北海道厚岸を対象としたヒアリングとアンケート結果に基づき,頻繁に発生しているステークホルダー間や,リーダー層と一般層との間の意識の乖離の存在とその要因を明らかにしています。ここで得られた結果は、意識の乖離の解消策を提示する上で,大変実用的な知見を提供するものです。また,住民意識調査から,生態系と社会の関係性を可視化するアイディアは非常に興味深いものがあります。さらに,特に合意形成の場で提示する資料としても,既往論文に比してさらにシナリオの提示の仕方に具体性と明解さが加わり,その実際の効果が期待できます。本論文で提案している,今後の地域がどのように変化しうるのかを明示したシナリオ化は,地域全体での意思決定や合意形成に寄与する手法の1つであると言えます。本論文が厚岸の事例で明らかにした知見は,他の沿岸地域だけではなく、一般的な組織内,部署内やセクター間での連携促進や意思疎通にも適応可能であると考えられます。 これらのように,本論文によって明らかとなった事実と論考は,沿岸域研究へ大きく貢献するものであると言えます。 以上を総合して,本論文を論文奨励賞受賞に相応しい論文として推薦します。
論文奨励賞 田中 孝登
全国の港湾地域における貯木場水面の立地・空間特性と都市的転用事例に見る水域陸域の
利用実態に関する研究
(沿岸域学会誌2021年Vol.34,No.2登載)
 本論文は,貯木場水面の詳細なデータベースを作成し,それらに基づき貯木場水面の特性把握を行い,また転用状況について分析した成果をまとめたもので,貯木場水面の今後の活用に向けた有用な資料として期待されます。また,貯木場水面を対象とした既往研究がほとんど存在しないことから,貯木場水面に関する知見の蓄積に寄与するものと考えられます。 本論文では,貯木場と背後地の立地や空間特性が地域毎に異なることを明らかにしています。特に,水面規模や水面は以後の都市規模や水面へのアクセス性などが水面と背後地の一体的利用のために重要であると結論しています。さらに,本論文で扱った事例の多くでは,地区計画策定に従い,土地利用と建築の規制や誘導がなされており,水面に配慮した環境整備がなされていたことを明らかにしています。本論文で得られた知見は,今後の背後地との一体性を配慮した貯木場水面の活用を進める上で,有用であると言えます。 これらのように,本論文によって明らかとなった事実と論考は,沿岸域研究へ大きく貢献するものであると言えます。 以上を総合して,本論文を論文奨励賞受賞に相応しい論文として推薦します。
出版・文化賞 四国防災八十八話・普及啓発研究会による一連の防災に関する普及啓発活動
団 体:四国防災八十八話・普及啓発研究会
 四国防災八十八話・普及啓発研究会は、国土交通省四国地方整備局が企画を行い、愛媛大学防災情報研究センターが事例を収集し、四国防災八十八話検討委員会により編纂された「〜先人の教えに学ぶ〜四国防災八十八話」 の冊子を防災学習の題材として活用するために発足した団体である。当該冊子の普及啓発活動として、内容をダイジェストし、わかりやすく視覚的にとりまとめた「〜先人の工夫や知恵に学ぶ〜四国防災八十八話」マップを発行し、地域の防災教育の教材とするとともに、冊子に記載されている様々な教訓や,それらに関係する情報を紹介するWebサイト「四国防災八十八話倶楽部 from Tokushima」を運営し、最新の情報を発信している。 本活動は、四国各地に残る水害、土砂災害、地震・津波、高潮、渇水に関する物語や言い伝えを丹念に収集する学術的な調査研究と、収集された資料を「史実」「今日的な教訓」「災害の種類」「時代」「地域」を元にわかりやすく再整理したことが特徴である。その結果を、学習者の主体的な学びを促す教材を静的資料(マップ)、動的資料(Webサイト)として提供することで、地域における多角的な防災学習・普及啓発活動に活用できる貴重な資料・機会を提供している。 こうした取り組みは、沿岸域の重要性の理解と認識向上等に顕著に貢献するものであり、日本沿岸域学会の出版・文化賞の候補となるにふさわしいと思慮し、ここに推薦する。
出版・文化賞 海辺の国際環境認証ブルーフラッグの取得に関する支援や海の環境教育に特化した市民大学の運営を通して「海を守り未来をつくる」活動を展開
団 体:NPO法人湘南ビジョン研究所
 我が国の沿岸域に相当する竹島周辺海域については、韓国政府もまた管轄権を主張し各種政策を執り行っている。しかし、竹島の領有権に関する研究ばかりが蓄積される一方で、韓国政府が行っている海洋政策への知的関心は明らかに低かった。例えば、韓国政府はいかなる意図(対日不満)の下、竹島周辺海域でどのような行動をとってきたのかという素朴な疑問に答えることができる研究さえ、ほぼ皆無である。このことが結果的に我が国および韓国における竹島理解を制約していたと言える。本書は、この点を正面から扱うべく、先行研究が極めて少ない中、韓国側の国会議事録や各種政府報告書を丹念に一つずつ読み込んでいくなど極めて長い時間を要する地道な作業を積み重ねて、韓国の諸政策の事実関係を整理したもので、その研究成果は画期的であると言える。 以上を総合して、本書は出版・文化賞受賞に相応しいと判断した。
出版・文化賞 沿岸域における環境価値の定量化ハンドブック
出版社:生物研究社(2020年3月31日発行)
編著者:岡田 知也、三戸 勇吾、桑江 朝比呂、秋山 吉寛、井芹 絵里奈、内藤 了二
黒岩 寛渡辺 謙太、棚谷 灯子、杉野 弘明、徳永 佳奈恵、久保 雄広、高濱 繁盛
高橋 俊之、菅野 孝則
 本書は,沿岸域の環境の保全・再生・創造の実務的視点から沿岸域の環境価値の評価を扱ったものであり,従来の環境経済学の視点とは大きく異なる独自のアプローチを持つ書籍です. 環境の保全・再生・創造の現場では,熱意や創意工夫とともに様々な取り組みを実施しています.しかし,それらの効果は適切に評価されていないというジレンマがあり,環境の保全・再生・創造の取り組みの効果を,もっとポジティブに,汎用性が高く,そして適切に評価する手法が強く望まれています.環境保全施設の計画時には,様々な背景を持つ関係者が,環境の保全・再生・創造の価値について,共通の理解を得られるような「環境価値の見える化」が求められています.また,ESG投資等の世界的な潮流において,民間企業に環境の保全・再生・創造へ投資してもらうためには客観的な数字として環境価値を提示する必要があります. 本書では,これらの社会的な動向を踏まえ,自然の沿岸の環境評価だけでなく造成干潟等の環境保全施設の管理・計画に活用できる環境価値(経済価値)の斬新な評価手法を,評価の具体事例を通じて丁寧に解説しています.本書で提案する評価手法は,生物量や来訪者数などの定量データに基づいた手法であり,評価結果はevidence-basedであるとともに,データに基づいて管理する現場に極めて適した手法です.本書では,実務における利用の観点から,実務者にとって馴染みのないアンケート調査手法を実際のアンケート調査票を示しつつ判り易く解説されています.また,アンケート調査結果の解析プログラムもダウンロードできる工夫がなされています.加えて,評価に必要なモニタリング項目については,実務的視点から,現場に多大な労力が掛からないように整理・解説されています. 本書によって,より多くの人々が沿岸域の環境価値の評価に取り組み,沿岸域の環境価値が社会に反映されるようになることが期待できます.実際,本書に基づく成果は後続の他書1)やその抜粋が日経コンストラクション2)や新聞3)など取り上げられるなど,グリーンインフラや公共工事,社会実装といった側面に波及しつつあります.また,本書は,専門的な技術書として,環境系コンサルタント,その分野を目指す若い研究者,大学院生,大学生などにも,沿岸域の環境価値の評価手法および環境の保全・再生・創造の価値を学ぶ上で大いに参考になるものと考えます. このように本書は,沿岸域管理の新たなアプローチとなる可能性を秘めた手法・概念を提示する内容であることから,貴学会出版・文化賞にふさわしいと考え,ここに推薦いたします.
功労賞 受賞者:大村 哲夫
功労賞 受賞者:畔柳 昭雄


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